2192分の1 「夢の証」

これほど興味深い野球試合はそうそうお目にかかれまい…。そう思って、この日を待ち望んでいました。NHKもBS放送ではなくて、総合テレビで生中継するほどですから、この試合自体に「ニュース性」が含まれています。

深夜2時、現実にこの放送を見るとなんとも感傷的な…そして、文学的な試合だ思えてくる。勝敗にこだわるべきはずなのに、今日の試合ばかりは試合開始前から「別のこと」に関心が向く。
「別のこと」、そう、松井秀喜選手がヤンキーススタジアム開幕第1戦に出場することに目が奪われていた。昨年までヤンキースの名選手であり、数々のドラマを残してチームを去った松井秀喜選手。
地元ファンはじめ、元チームメイトたちが彼をどのように迎えるのか…と、試合の勝敗とは別な期待感が膨らんでいた。そして、本人はこの試合でどんな打撃をするのか…と。
昨年のワールドシリーズ第6戦では宿敵マルチネス投手からホームランを打ち、6打点を挙げてNYYの優勝を決めた彼の活躍はもはや伝説になっている。MVP選手になって当然の活躍だった。
しかし、ヤンキースはさまざまな事情があったのだろう、この名選手を放出した。この「放出劇」もまた、地元では散々話題にされ、いまではこのこともまた伝説になった。

試合前のチャンピオンリング授賞式のでのこと。
NYY各選手が表彰された後、最後に呼ばれたのはエンジェルスに移籍した松井選手だった。
三塁側から飛び出した赤いユニフォームの松井選手に、満員のスタンドは総立ちで拍手を惜しまない。拍手の音がニューヨークの大空に溶けていく…。
すると、突然思いがけないことが起きた。一塁側に陣取るNYYの全選手がベンチを飛び出してきた。ジータ選手が強烈な男流のハグをすれば、A・ロッド選手が笑顔で飛びつく、カノー君は先輩に敬意の笑顔を送り、ポサーダ捕手が満願の笑顔で走り寄ってくるではないか…陽気なスイッシャー選手にチェンバレン投手などの顔が写った。松井選手を囲んでチームの輪ができあがっていく。そんなグランドでの光景に観客は惜しみない拍手が、まるであのときのように響き渡る。ベースボールならではの選手とファンが一体になった瞬間の中心に、松井秀喜選手がいる…。
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あんなに清々しい表情を見せる松井選手を、ボクは初めて見た。感極まったのか、松井選手の目頭には、光るものが見える…。その光はチャンピオンリングの輝きと同じほどに透明感があった。やさしくもあり、誇りであり、生きている実感そのものだ。

今日、松井選手は5回打席に立った。初回の打席ではポサーダ捕手からなにか促されたのだろう、万雷の拍手に応えた松井選手はヘルメットをとって、観客に挨拶した。
「最初は多少の違和感があったが、打席に立てば、打ってやろうという気持ちだけだった」
が、結果は5-0の無安打で終わった。「NYYを見返してやれ!」だの、「ホームランを連発しちゃえ!」だの声もあったかもしれないが、昨日の試合では無安打での敗北がふさわしい。

ボクはこれでいいと思った…。
チームの勝敗に人一倍こだわりを持つ松井秀喜選手が、その野球人生で初めて、試合をするグランドに「自分」を持ち込んでしまった…。感極まって「光るもの」を見せてしまった松井選手。日本で1268試合、MLBでは924試合、シーズン戦合計2192試合目にあたる今日の試合。シーズン中は「チームの勝利ため」に戦ってきた4番打者・松井秀喜選手が、たった一度だけ、「自分」を持ち込んだ試合をしても許してあげられる、ボクにはそう映った。
ボクはこれがいい、と思った…。一度くらい、せめてその長き野球人生で一度くらいは「自分のため」に試合に臨んでもいいと、ボクには思えたのだ。大リーガーとしての自覚であり、4番打者の証明であり、そしてボクたちマツイファンに対する彼からの返礼として、その「目頭の光り」を「夢の証」にさせて欲しい…と思えた。

たった一度だけで、終わりにしよう。
明日からはまた海軍的数値で戦術を立てるベースボールにもどろう。各人の個性を生かそうとする陸軍的感性を持ち込んでまたいつものように、「チームの勝利」を優先していこう。
明日からはまた、いつもの松井秀喜選手に還ろう。今年は例年以上に勝敗にこだわって欲しいし、ホームランを狙い撃って欲しい。チームの4番打者・松井秀喜選手に還ろう。
さあ、還ろう、いつもの姿の松井選手に。その姿にまた、ボクはいつものように声援を続けていく。
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(写真はMLBサイトより)
…NY152…
by mlb5533 | 2010-04-14 19:40 | 第八章