さらば「24番」 日本から感謝の花束を貴君に贈ろう!

明日からエンジェルスはシアトルで3連戦だ。

開幕直前まで、このカードは全米でも注目され全国放送まで決まっていた好カードだった。しかし、マリナーズの成績不振からテレビ中継は取り止めになったと聞く。リー投手を獲得し、エンジェルスからはフィギンズ選手を獲り、まさにビッグなトレードが成功したマリナーズだった。それもこれもマリナーズには、ケン グリフィー ジュニアがいるからだ、という話しまで出たほどだったのに…。
そのヒーローがいま、バットを置いた。22年間もの大リーグ現役から引退する。
やっぱり、ボクには淋しさが長く尾を引いている…。
シアトルの天然記念物であり、大リーグの良心であり…そんなことはもいいまさらどうでもいいのかもしれない。ジュニアに憧れ、尊敬している現役選手はあまりにも多い。
背番号24はもうシアトルだけの宝ではなく、全世界のベースボールファンの心に「物語」を残してくれた。いつかはこの日が来る、この報せは覚悟していたけれど、こんな形になってしまい、余計に淋しい。今日のシアトルの新聞社はなんと7ページにわたってジュニアを特集記事にしていた…。

ケン グリフィー Jr.
ボクたちベースボールファンに、これほどの「物語」を提供してくれる選手はもう出てこないと思う。アメリカ文化史に残してもいいとさえ思える。彼とその家族、そして彼の歩んだ「ベースボール物語」を聞かせれば、現代アメリカ史まで理解できる感じさえしてしまう。きっと彼は映画や舞台の題材にされることだろう…。
ひと言で、22年間というけれど、生まれた子供が大学を卒業するまでその間ずっと大リーガーであり続けたのだ。22年間、である。
2671試合に出場して、2781本の安打を放ち、そのうちスタンドに白球を放り込んだホームラン数はジャスト630本。打点1836…彼の即席には気が遠くなる数字が刻まれている。

さまざまなことを言われてきたが、現在のシアトルマリナーズを救ったのはジュニアである。そんなことはいまさら書く必要もないが。

ボクは今季開幕直前に、こんな「夢」を見た。
松井選手とジュニアのホームラン競演の「夢」だ。どこか…ボクの心の目には、ふたりの生き様が妙にダブルのだ。

松井選手ってどこか、古臭い。打率だの球速、右翼、左翼ライン距離数、ダイヤモンドの距離だのと、まさに海軍的数値が要求されるスポーツにあって、松井選手はいつも「チームのための打撃」「チームが勝利することが一番」と試合に臨む姿勢を変えない。ヒーローインタビューでも、小器用なコメントでもすればいいのだろうが、笑顔があっても「そういう場面で打てて、チームが勝ってよかったです」という選手だ。個人的なよろこびは表に出ない。そんなところが、古臭く又、陸軍的な叙事詩を漂わせる不思議な選手だ。もっとも、ボクにしてみればもそれが彼の最大の魅力であり、人間・松井秀喜選手を感じて好ましい。古臭いほど、伝統的な日本人像が松井選手には漂う。

スタイルを変えない姿勢には不器用な感じさえする。ジュニアにも同じことが言える。
ふたりとも、小器用な人々から見ればそうとうな頑固者、に映っていることだろう。チームが負けていることに敏感であり、それでいて、自分を信じている…。だから、責任感は人一倍だろう。もうすこし、器用に立ち回れば…と、思うこともふたりにはあった。

そんなふたりの生き方が、巡り巡ってアメリカ西地区で重なったのが今季。
全米を代表する大リーガー・ケングリフィージュニアと、我が日本を代表するホームランバッター松井秀喜選手が同じグランドでプレーする…。そんな「夢」を見たものだったが、ジュニアの調子はもう戻ってこなかった…。

明日からの3連戦。
ボクは勝負の世界であることを十分に承知の上で、はなはだ失礼だが、ちと、感傷的に観戦していたいのです…。

さらば、ジュニア。
惜別の詩を貴君に届ける選手は、松井秀喜選手でなければいけないのです。
「背番号55」が貴君の栄光を讃えて、夜空という濃紺のキャンバスに白球が美しい放物を描きあげることでしょう。貴君がかつてそうであったように、貴君に捧げる花束を「ベースボールの花」に託して、貴君に届けるはずですから…。


…NY152…
by mlb5533 | 2010-06-05 02:26 | 第八章