伝説 ジーター選手の物語

a0094890_332253.jpg…最終回。
それは、もはや祈りに変わっていた…。

瞬間、満席のスタンドに大歓声が響き渡り、突然、4万8、613人が奏でる大拍手に変化する。そのハーモニーは満天の星空に轟き、そして、透きとおった人々の瞳から熱い涙が溢れて頬を伝っていた…。


いや、待て。
この感動の人数は、4万8、613人のスタンドの観客だけで足りるわけがない。
全米の、いやいや、全世界のベースボールファンはスタンドにこそ陣取れなかったものの、テレビが映し出す映像から、あるいは、カーラジオの音に、4万8、613人と同じような表情で、歓喜の渦に参加していたに違いない。ボクのように…。



これがベースボールの「ドラマ」であり、このドラマに魅せられた者たちは等しくベースボールファンとなり、集い合い、その心の響きがベースボールの世界を育くんできた。今宵、スタンドから響き渡った4万8、613人のサウンズは、あたかもベートーベン交響曲第9番「合唱」のように、「歓喜の歌」そのものではないか。生きている証を見せてくれる…。

日本時間、2014年9月26日(現地25日)、米国ニューヨーク州、ニューヨーク・ブロンクスにある野球の殿堂「ヤンキースタジアム」で起きた真実のドラマである…。


この試合は、ヤンキースがホーム球場ヤンキースタジアムで行う2014年シーズン最後の試合だった。今シーズン限りで引退を告げているジーター選手にとっても、20年のキャリアにホームでの試合にピリオドを打つ試合になった。ヤンキースファンは、ジーター選手の地元スタジアムでプレーする最後の試合だ。スタンドでは、「ジーター」の合唱が試合前から響いているほど、特別な、歴史的試合になった。

ファンはなんとしても、「勝つ姿」を見たい。ジーター選手が大活躍して「勝つ試合」になって欲しい。そんな想いを抱いて、スタンドから声援を送る。
ヤンキース先発投手は、黒田投手だ。
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今シーズン、ただひとりローテーションを守り続けたヤンキースのエースでもある。
ところが、相手チームの先頭打者と2番打者にホームランされ、あっさり2点の先制を許してしまう。しかし、ヤンキースは先頭打者・ガードナー選手が出塁して2番・ジーター選手がレフトセンター間のフェンス直撃の2塁打でまず1点、マッキャン選手の打撃は相手チームのエラーを誘い、その間にジーター選手が生還。あっさり、同点。試合は早々と振り出しに戻った。
その後試合は6回まで動かない。そして、7回ヤンキースの攻撃。満塁で、ジーター選手を迎える。
打球はゲッツーか…と思われたが、エラーになり、2点が得点された。
4-2
そして、マッキャン選手が犠打を打って、5-2。

黒田投手の13勝は確実…と、思っていたらなんとなんと、抑えのロバートソン投手が2ホーマー、3点を浴びて、5-5の同点にされた。

そして、9回裏。
野球の神様は実に見事な、決して凡人でも忘れることがない、ドラマとはこれだと言わんばかりの台本を急遽、書き上げてグランドに投げ入れた。
その台本とは…。

ヤンキースは代走・リチャードソン選手を2塁において、バッターにジーター選手を登場させるという、恥ずかしいほど、初級者的な、しかし、観客が最もみたいであろう舞台をそのまま素直に用意してくれた。

『ジーター選手がここでヒットを打てば、サヨナラゲームになる…、そして、この打席がジーター選手のキャリア20年、ホーム球場での最後の打席になる…』
…という舞台設定が、いま現実になった。

『打ってくれ…! ジーター…最後だ…!』
と、願って、全世界の野球ファンはこの瞬間に奇跡が起きることを信じた。

だから当然、人々は、祈った…。
それぞれの想いを、なにかに託さざるを得ないほど、胸が異常に熱い…。

人々は、このとき、等しく、祈りの姿になった…。

祈りが届いた!
その願いが叶った!

ジーター選手は、いつもの「あのジーターヒット」と呼ばれている右打ち、「ライト前ヒット」を、なんと第1球で決めてくれた。

人々の表情は、祈りの姿から、歓声に変わって、拍手のハーモニーになり…そして、あたたかい涙と変わっていく…。
ジーター選手は、またしても最後の最後に「自叙伝」を綴ってくれた。こういうことが出来る選手だからこそ、ボクたちはジーター選手を「英雄」と呼び、「キャプテン」と言い合う。

この試合こそ、「ベースボールの醍醐味」であり、この試合がヤンキースの伝統的試合運びであり、勝ち方であり、そして誰も演じきれない打撃…を、またしても見せる「背番号2」のジーター選手なのである。

真のヒーローとしてその名前を多くのファンの心に永遠に記憶させる選手だけが為し得る「神技」を惜しげもなく最終の舞台でも、ボクたちの心眼に浸みとおしてくれた選手はそうはいない。


そう、もう二度と観ることが出来ないベースボールの神童「デレク・サンダーソン・ジーター(Derek Sanderson Jeter)」が、この舞台でも…またしても…「神技」を披露してくれた。「デレク ジーター」の名前と「背番号2」はこうして伝説になり、彼の野球物語はこの最終戦から書き始まることになるだろう…。

スポーツは単純だ。勝ち負けの世界だから。
人は「勝ちの世界」とつながっていたいとの要求、欲望がある。「勝ち」、そう、「うまくいった状態」に、この身を置きたい。「負け」、そう、「うまくいかなかった状態」は避けたいのだ。スポーツに限らず、人生すべてに、である。

今日、26日。
世界中の野球ファンは、ヤンキースタジアムに集まっていた。
そして、ジーター選手の「勝った姿」を自分の人生にできた日なのだ。間違いなく…。しかも、劇的に、熱情を込めて「勝ったよ」と。

だから、今日だけは、ヤンキースのファンはもとよりのこと、ベースボールのファンたちは、すべてその人生で「勝った」ことになる日なのだ。
自分史をジーター選手とともに綴った日になった…。
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…NY152…
by mlb5533 | 2014-09-27 02:51 | 第二部