田口壮選手の「Amazing !」物語

a0094890_16585153.gif「何が起こったのか、よく分かってなかった。だから、とにかく走った」
田口選手は使い慣れた英語で、そう記者に笑って答えた…。
今年、37歳になった。日本球界ではすでにベテラン選手と呼ばれていることだろう。彼のひとつ年上の選手に、巨人軍の桑田投手、オリックスの清原選手たちがいる。

田口壮選手。
2002年、セントラルカージナルスに入団。
セントルイス・カージナルス(St. Louis Cardinals)は、アメリカメジャーリーグ、ナショナルリーグ中地区所属。本拠地はミズーリ州セントルイス。発足は、1875年。1892年にナショナルリーグに移籍した。
現存するメジャー球団ではもっとも長い歴史を誇る球団だ。
ナショナルリーグ中部地区では圧倒的な実力を誇り、主催試合での観客動員はメジャーリーグでもトップクラスの人気球団である。プレーオフ出場の常連チームであり、「ワールドチャンピオン9回」は、ニューヨーク・ヤンキースに次いで史上2位なのだが、1982年以後世界一から遠ざかっている。2004年はレッドソックスに破れ、「ワールドチャンピオン」になり損ねたことは記憶に新しい…。

背番号99は、田口壮選手の「誇り」の表現である。
大リーグ選手の現役で、これ以上重い数字を背負った選手はひとりもいない。「最後の数」が、きっと田口選手にはお気に入りなのだろう。もう、後がない、という緊張感も抱きながら…。
田口選手は、そんなに派手な選手ではない。33歳で太平洋を渡った。そう、あの「夢」を抱いて。
大リーグでの成績は、通算打率.281 本塁打16 である。今季本塁打は134試合に出場して、2本だけ打っている。この極めて地味な数字を見る限り、田口選手がまだ大リーグに残っていることが不思議に思う人たちも多いだろう。派手さが売り物、それが米国ベースボール、と思っている人たちには。

しかし、それにしても…田口壮選手の選手寿命がなぜこんなに長いのだろうか…。
なぜ、ラルーサ監督は「ソウは素晴らしい選手だ」と彼をあれほど高く評価しているのだろうか。
a0094890_1659955.gif
トニー・ラルーサ 監督(Anthony LaRussa Jr., 1944年10月4日生 NY州出身 )について、少し書いておこう。
英語とスペイン語のバイリンガルで会話している。「対話」を重視している人物である。
1979年のシーズン中に、若干34歳でシカゴ・ホワイトソックスの監督に就任。1983年にはアメリカンリーグ西部地区を制し、最優秀監督賞を受賞。その後1986年のシーズン中にホワイトソックスが26勝38敗とつまづいた責任から、解雇されたことがあった。

ホワイトソックスから解雇された3週間後には、オークランド・アスレティックスの監督に就任している。
マーク・マグワイア、ホセ・カンセコの通称バッシュ・ブラザースを擁して、1988年から1990年まで三年連続でワールドシリーズにチームを導き、1989年にはサンフランシスコ・ジャイアンツを降してワールドシリーズを制覇する。1988年に二度目、1992年に三度目の最優秀監督賞に輝く今や米国大リーグを代表する名将監督の人格者だ。

1995年にアスレティックスの監督を辞任、そのままセントルイス・カーディナルスの監督に就任し、1996年、2000~2002年の4回ナショナルリーグの中部地区優勝を果たしている。

2004年までの監督としての通算成績は2114勝1846敗、勝率5割3分4厘、そのうちカーディナルスでは794勝663敗、勝率5割4分5厘である。ア・リーグとナ・リーグの両リーグを制覇した史上六人目の監督であり、通算2114勝は歴代六位である。また、両リーグで最優秀監督賞を受賞した二人目の監督でもあり、ラルーサ監督は紛れもない現代野球の最高監督の一人である。
オークランド・アスレチックスを代表とするビッグボールに対抗し、ベースボールの基本である伝統的なバント、盗塁等の小技を用いるスモールボールを好む監督としても、その戦術は有名である。
スター選手ひとりが活躍するチームよりも、「全員野球」で勝利するチーム創りをしている監督なのである。選手ひとりひとりの「特性」を引き出す監督、ということになる。

従ってカーディナルスの選手は、「走る、打つ、守る」この基本動作に忠実になる。
それを熟知しているのが、この日本からやってきた地味な選手、「田口壮選手」だったのだ。彼は実に野球を知っている選手、とラルーサ監督の目には映ったというわけだ。自分を犠牲にしてまで自軍のランナーを進塁させることをいとわない。田口選手の打法も、右に左と打ち分ける技を持っている。そして、足は速い…。粘り強く、忍耐出来る。

ラルーサ監督の目には、田口選手の特性は野球選手として最適であり、また秘蔵っ子、である。
「ソウの気持ちと私の気持ちがひとつになっているから、時々気味が悪くなる」と言って記者を驚嘆させたことすらあったではないか。それほど、田口選手を大切に、まるでトランプゲームの「切り札」として、とっておいている。なにかあったら、この「カード」を、と。

そんな地味な選手が、この「10月」に、あの「夢」を抱いてラルーサ監督と仲間たちとともに、グランドに向かっている…。

今シーズン、田口選手は134試合に出場して、316打数のうち本塁打はたったの2本だった。
なのに、この「10月」には、代打出場して2打数2本塁打の大リーグ記録まで創る大活躍ぶり。

昨日のことだ。Amazing ! が、起こったのは…。それはまさに「夢物語」にふさわしい伝説になった。
メッツ戦6-6で迎えた9回表、田口選手の打球は左翼スタンドに吸い込まれていく。
逆転本塁打!
この大舞台で、地味な選手が超派手なプレーをしてくれたものである。
しかも打った相手はメッツの守護神ビリー・ワグナー投手を打ち込んだのである。

ワグナー投手との対戦は、過去5打数無安打。しかし、ラルーサ監督は「ソウ(田口)は終盤にいい働きをする」と、起用を迷わなかった。田口も最初のファウル(2球目)で「(タイミングは)大丈夫だと思った」。球が見えていることを確信すると、粘った末、9球目を見事にとらえての逆転ホームランだった。
左腕からの快速球を武器に今季40セーブ、通算324セーブを挙げている屈指のクローザーだ。
同点の9回からマウンドに上がったワグナー投手は、途中出場の田口選手を先頭打者として打席に迎える。ここでワグナー投手はあっさりとカウント2-0と田口選手を追い込むが、結局フルカウントから2球ファウルで粘られた後の9球目、98マイル(約158キロ)の速球をレフトフェンス越しに運ばれた…。

a0094890_1658454.gif
そのワグナーが13日のセントルイス・カージナルスとのナ・リーグ優勝決定シリーズで繰り広げた、田口壮外野手との勝負を振り返って、こう言っていた。
「いい勝負だった。フルカウントになった後は、高めの速球でポップフライに打ち取るつもりだった。田口は速球に強い、いいバッターだ。彼は俺との勝負に勝った」と。
田口選手の逆転本塁打で、カーディナルスはメッツと1-1のイーブンにした。

もう日本人選手は誰もいなくなった「10月」と思っているファンもおられたことだろうが、ドッコイ、
ここに地味な男の「田口壮選手」がいま、一生に一度のチャンスに「夢」を託して戦っている…
相手チームは、ニューヨークメッツ。ヤンキースとその人気を二分するほどの超人気球団。
1962年発足して1969年にワールドシリーズ初制覇。「Amazing Mets !」の名前を全米に轟かせた。2000年、そのメッツを相手にリーグ優勝を賭けて戦ったが、1-4でカーディナルスは敗退している。あれから、6年が経った…。

a0094890_16573330.gifいま、ラルーサ監督は手塩にかけて育て上げた選手たちとともに、ニューヨークメッツを追いつめる。
この際である、はっきり言おう。今年のメッツは球団史上最強チーム、だと。
今年のメッツは、史上最強だということを大リーグファンならずとも、ニューヨーカーなら誰もがわかっていることだ。ヤンキースファンのボクが言うのもおかしな話だが、今年のメッツは強い。ほんとうに、正真正銘、本物の大リーガー軍団である。強い。こんなにスゴイNYMはその歴史上に存在していない、と断言できる。その破壊力はいまの大リーグでは、一番だ。
もし、いまのヤンキースが…いや、よそう。「もし、と、たら話」は…。ボクは今シーズン開始直後から感じていた…。同じNYにいるチームのこと。メッツの動向は気になって仕方がなかった。とくに、夏場の7連勝、8連勝には…。
「このメッツを一体どのチームが倒すんだろう」と。


そして、今日!
なんとなんと、なんと…
「STL 5-0 NYM」
メッツ打線を完封したではないか! これでカーディナルスは2勝1敗。
あの世界一おっかないメッツ軍団相手に、カーディナルスは優勢に転じた!
1.レイエス選手 2.ラドゥーカ選手 3.ベルトレン選手 4.デルガード選手 5.ライト選手 そして、かつての安打製造器の6.グリーン選手(この打順が不気味。なんでグリーン選手が6番?こわぁ~) この6人の打数合計20 安打はわずか2。この6人に対して、奪三振1 与四球1だった。
スーバン投手は、打たせて取った。守りの野球に徹したのである。ラルーサ監督の真骨頂をこの試合に見たのは、ボクだけではあるまい! そして今日もまた、田口選手は8回から守備固めとしてレフトにはいっていた…。

a0094890_1657257.gif果たして、
「Amazing !」
は、どちらのチームになるのか… どの選手になるのか… 
その決着は間もなく、つく。

NLでは「デトロイトタイガース」が4連勝して、リーグ制覇を成し遂げた。
「タイガース」のワールドシリーズ進出が決定した。
(コラージュは筆者制作)
…NY152…
by mlb5533 | 2006-10-16 03:33 | 第一章