師弟関係

数日前のこと。サンスポのサイトに
「 松井秀よ、首位打者獲れ!長嶋さん極秘指令 」
との、記事が載っていた。
その記事によると、「本塁打王でも打点王でもなく、なぜ首位打者なのか。松井秀は「長打を狙うと打撃を崩しやすくなる。打率を残せば本塁打数などはついてくる」と説明されたと明かした」という。
巨人軍4番打者としてボクたち野球ファンに、永遠に記憶に残る活躍をした長嶋さん。長嶋さんこそ、今日の「野球」に市民権を与えた歴史的人物、といっても決して過言ではない。常にファンの期待に応えることを念願してプレーし続けた、と聞く。そのためにはおそらく人知れず練習したことだろう。若き頃の長嶋さんは。貴重な自分の体験から松井選手に、そんなアドバイスをしていた…。
サンスポの記事を読みながら、さすがは長嶋さんだ、と感心した。

松井秀喜選手と長嶋茂雄巨人軍名誉監督。ふたりの間柄は「師弟関係」とメディアは紹介している。
いい話だなあ、と思った。
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長嶋さんも日本球界から去り、松井選手が巨人軍を離れて太平洋を渡ったのは7年前のこと。ドラフト会場で長嶋さんが松井選手を引き当て、茶目っ気たっぷりにガッツポーズした姿はボクにはまだ忘れられない…。
太平洋を渡って6シーズン。松井選手は始めの3シーズンはともかく、この3年間は怪我に泣かされっぱなしだ。思う存分プレーできなかった松井選手の心境を手に取るように理解していたのは、きっと長嶋さんだったのだろう。
それでも松井選手本人はクサる姿を見せずに、どんなときでもメデイアには明るくコメントしていた。きっと言いたいこともあるのだろうけれども、言い訳もせず、リハビリに専念する姿が報じられていたものだ。そんな松井選手を激励し続けていたのは、日本では長嶋さんだった。松井選手は長嶋さんをいまだに「監督」と呼んでいるようだ。松井選手にとって、長嶋さんとは「特別な存在」に違いない。

話はボク個人のことになるが、最近また経済モノを書いている。去年に出版した書き下ろしが意外にも好評だったのか、また「続けて書け!」と旧友は言う…。もう現役はとっくに卒業したつもりだったのに、また日本経済の現場「グランド」に出る。去年、現場で取材したがボクの心境はまるで「浦島太郎」だった。何もかもが違っていた。まるで「ルール」そのものが違っているようにさえ感じたものだから、どこをどう動いたらいいのかさえ見当も付かなかった。「ああ、そんなことはHPに書いてあります」とか「そんな人はもう弊社とは無関係です」だのと、電話だけであっさり。

情報とは、「情け」の「報い」と書く。日本経済の現場にボクは今、発展し続けていた以前の日本経済界の「情け」をどこにも感じることがなかった。それが寂しかった…。
神保町のなじみの店に行った。資料を買い集めるためである。なじみの店主に「ねぇ、○×書房さん、引っ越したの?」と尋ねたら、「ああ、それなんだけどさぁ。社史専門店はつぶれたよ。個人情報秘匿とかなんとかいう法律のせいで、社史が売れなくなったから…」どこに言論の自由があるのか。
日本経済の足取りは、各企業の「社史」を読めば実によくわかる。誰がそのときなにをしたか、その状況でその企業はどんな経営策を打ち出して突破できたか…という、貴重な事実が残されている。
本来「社史」は非売品なのだが、そこはそれ、神保町古本店のこと。昔はここで買うことが出来たのだが、これも「ルール」の違いからなのだろう。

著者名と版元が明記してあるのが「出版物」だ。内容において、著者と出版社は「文責」があります、ということだ。責任と自由は、共存していなければいけなかったのがボクが現役時代の「ルール」だった。無責任な自由なんて当時の日本にはどこにもなかった…。課長職は新卒者を徹底的にしごいた。新卒者はそんな課長を初めのうちは恐れる。しかし、時が経ってくると鬼課長が「父親」にも見えて、やがて「大切な相談相手」になっていく。課長は部長から自分が面倒を見ている若いスタッフの小言をきくと、瞬時にかばったものものだった。日頃、罵詈雑言にさえ聞こえる文句しか言わない課長がいざ自分の部下の文句を他人から聞くと、例えどんな立場の人であっても、かばったものだった。それが昔の日本経済界の現場だった…。
部下の仕業は上司の責任、だった。部下は上司から仕事の「責任」をたたき込まれた、というわけだ。

従って、サラリーマンにも「師弟関係」が生まれた。昔、財界四天王と呼ばれた財界人たちにも実は彼らをそのように育んだ「師匠」がいたのである。

ボクは想う。松井選手と長嶋さんとの人間関係である。すてきな関係だなあ、と。
おそらく松井選手は長嶋さんと過ごした日々を生涯忘れないだろうと思うし、また長嶋さんは松井選手を手塩にかけて育てたことを忘れない「可愛くて仕方のないヤツ」なんだろう…と。そして、ボクの個人的印象だが、このふたり、さっぱりしている。都会的というか…、泥臭さがないところがボクの趣味にも合っているのかもしれない。ファンへのサービス精神はふたりとも、超一級だ。長嶋さんの右手が松井選手の右手をしっかりと握りしめていた…。

そんなに可愛いヤツが、たかが怪我くらいで弱音を吐くな、っと。松井選手よ、3年間のウップンは今季取り戻せるぞ、と。ファンはお前から去ることなんてないぞ、と。むしろお前のファンは、「松井選手の活躍を長嶋さんと同じほどに待ち望んでいるぞ」…と。

昔、住友銀行という銀行があった。そこの頭取をしていた人物に磯田一郎さんという人がいる。彼は学生時代、ラクビーばかりして学業は少々遅くなった。就職も仲間たちより後れを取ったそうだ。銀行に入行した当時は地味な仕事ばかり続いたと聞いた。で、彼が大学の「師匠」から、ツルゲーネフのこんなことばをもらっている。要するに、そんなに焦るな、人との差を比べても、たかが知れているぞ、という意味なのだろう…。ちと、生意気でイヤ味っぽくちゃうかもしれないけど、磯田頭取が愛した言葉を、ボクはそっくりそのまま、松井秀喜選手に贈ります。

疲れたら 道ばたの岩石に腰掛けて休むがいい
そして 疲れが癒えたら 立ち上がって 前を見てごらん
君を追い抜いた人たちは さほど遠くへは 行っていないから…

ツルゲーネフのことばより


「松井選手 首位打者を狙って!」


(写真/サンスポサイト2009.1.28 より)
http://www.sanspo.com/mlb/photos/090128/mla0901280505007-p2.htm

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by mlb5533 | 2009-02-04 11:35 | 第六章