2721本の物語/ジーター選手伝説

レイズにとって、ヤンキースとの4連戦は「10月決戦」進出を賭けた大事な4連戦だった。
それまで4連敗中のレイズ。ヤンキースとの4連戦でなんとか踏みとどまりたかったことだろう。だが、結果は4連敗。ボストンは2連勝して、81勝。8連敗となったレイズは72勝のままだ。これで今季のレイズは事実上終わった…。明日からボストンとの3連戦があるが、数の上ではもう届かない。

数、数値…。
ベースボールというスポーツは他のスポーツと比べて「数値」だけでもボクたちは楽しんでいる。打率が上がったとか、あと2本打てばホームラン王だとか、盗塁数は一番だとか…。
そもそも1845年、「ベースボールの父」といわれるアレクサンダー・カートライトがアメリカ・マンハッタンで若者たちを集めてボランティア消防団を創り、ここで始めた「ベースボールのルール」が現代野球の源になっている。ベース(塁)という考え方や、ゴール(得点)ではなくて、ホーム(家)という表現、チーム(仲間・団員)で競い合う意識はあきらかにボランティア精神がその柱になっている。カートライトはこのスポーツを通じて、体力の増強もさることながら、チームプレーによる感激を伝えたかったのかも知れない…。9人制で3アウトで交代、ファールという考え方など現代野球の基礎ルールはここで創られている。1868年に日本は明治になるが、それ以前の江戸時代の頃にベースボールは誕生している。
ただし、この時は「21得点ルール」だったから試合時間がとてつもなく長いのだ。とにかく相手チームより先に、21得点をとらないと試合は終了しない。観戦する両親や友人も退屈してくる…。

ベースボールはここからはじまり、幾たびもルール変更した。変更の狙いは「試合時間の短縮」である。1857年「9回までに得点が多かった方が勝利チーム」となり、1858年「見逃しストライクコール」が認められ、1879年「9ボール」で1塁へ。1880年「8ボール」で1塁、3つめのストライクを見逃すか捕手が直接捕球したら「ストライクアウト」。1882年、それまでは下手投げしか許可されていなかったがこの年「横手投げ」が解禁。1884年、ついに「上手投げ」が解禁し、さらに「6ボール」で1塁へ。1889年「4ボール」で1塁へ、これが現在のルールに残った。
守備でも、それまではワンバウンド捕球でもアウトだったが、1864年には、ノーバウンド捕球のみ、アウトカウントになると変更している。
これだけ度重なるルール変更があったと言うことは、ベースボール自体がおもしろいスポーツだったからだろう。あっという間に、全米に広がっていく。

試合時間を短縮すると、なにが生まれたか…。
スリリングなプレーが生まれてきたのである。思いもかけない直接捕球が見られる。打者を三振させる。素早く捕球して、送球する。送球の早さに負けないように塁へ、より素早く走り込む。
ボランティア精神から誕生したベースボールというスポーツに、スピードが生まれた。従って、スリリングなプレーが続く。となれば、「観戦する価値」が出てきた…。

1869年、米国でプロ野球が生まれた。新聞社は彼らのプレーを報じた。
その記事には、彼らの活躍を詳細にわたる「記録」と「数値」で表現したのである。打率、本塁打、打点、得点、三振数に四球数…。アメリカには、あらゆるスポーツデータを管理する会社が存在していると聞くが、当然だろう。とくにベースボールは「記録」そのものに「価値」があるのだから。
それにしても、感心する。
19世紀当時のスポーツジャーナリズムである。スポーツ記者の一体誰が始めに「打率」「打点」などに視点を向けて、ひとりひとりの累積成績を記事にしていったのだろうか…。これを発見したアメリカスポーツジャーナリズムの斬新的視座に感服してしまう…。もし、ベースボールに「記録」がなかったとしたら、なんとも味気ない。これほど「数値」にこだわるスポーツはベースボールだけではないか。サッカー、バスケット、アイスホッケー、バレーボールなどの球技種目があるが、ベースボールほどの記録と数値は報道されていない。

ボランティア精神から誕生したスピードと数値のスポーツ「ベースボール」。
スリリングであり、ドラマ性の高いスポーツとして、完璧なまでにボクはこれに魅了された。

そしてここにいま、2721、という数値と、70年という歳月の数がある。
2721とは、安打の数であり、70年とは2009年と1939年という時の間隔だ。
1939年、ルー ゲーリッグ選手が通算17年間2130連続試合出場記録を残して、ヤンキースを退団したが、彼の累積安打数が2721本だった。彼が在籍中、ヤンキースは8回ワールドシリーズを制覇、ベーブルースとともにヤンキースを王者に育てた第一人者でもある。通算満塁本塁打23本は、21世紀の今日でもまだ誰も破ることが出来ない。長い大リーグの歴史上「永久欠番」という思想を考えついたのも、ルー ゲーリッグ選手からである。ヤンキースでは「背番号4」はルー ゲーリッグ選手以外、後にも先にも彼だけが付けていた背番号である。

37歳で難病から夭折したルー ゲーリッグ選手…。ボクはこの人から、なぜか文学的な香りを感じてしまう。ディマジオ選手よりも、なぜかボクはミッキー マントル選手を好む。最近では、ティノ マルチネス選手、ドン マッティングリー選手。そして、「永遠の背番号51」バーニー ウイリアムス選手…。こんな選手たちにもボクはゲーリッグ選手と同様の香りを感じてしまう。スポーツに文学を持ち込むのは、彼らには失礼だとわかっているのだが、これもボクの観戦の楽しみぐせ、お許し願いたい。

ルー ゲーリッグ選手をレポートしたらこのブログでは収まらない。アメリカの書店にでも行けば彼に関する著書や夫人の書き上げた伝記もあるだろう。それほどルー ゲーリッグ選手はアメリカ国民には歴史の人であり、ヤンキースの選手にとってはもはや「神的存在」だろう。

ヤンキース一筋、ルー ゲーリッグ選手の生涯。打ち込んだ安打数が2721本。
この記録に挑戦権を持つだけでも現代の大リーグでは困難だろう。というのは、1チームに生涯在籍する選手が少なくなったこと。チーム事情と選手の要望からトレードは平気で行っているからである。
この数少ない挑戦権を持っていたのが、現代っ子ジーター選手である。

1995年、デビュー戦はシアトルマリナーズ。初ヒットしたが、この時マリナーズの1塁にはティノ マルチネス選手がいた。それから14年間、2008年まで2535本の安打を積み上げてきた。2009年9月7日から9日、ヤンキースタジアムで昨年のAL優勝チーム・レイズ戦。7日のダブルヘッダーでは8-0、8日は4-0と、12打数0安打と散々だった。あと3本なのに、これが容易に打てない。
a0094890_1342653.jpg

現代っ子ジーター選手は自分が今なんと対峙しているのか、わかっていた。そうだ、子供時代から聞かされ続けてきた伝説の偉人「神・ルー ゲーリッグ選手」と向き合っていることを…。
2721本は現代っ子ジーター選手にとって、「神の領域」に思えたのかも知れない…。この領域に自分が入り込む…。神の部屋の扉を開ける…。それには、「あと3本の安打」がどうしても必要なのだ。
なのに、この3試合では、4三振もしている。神・ルー ゲーリッグ選手の直前で、堅くなっている自分をもはや隠せない。観客のため息などジーター選手にはなにも価値がないのだ。

そして、9日になった。
誰もが「今日はムリだろう」と予想していた。3本の固め打ちは難しいだろう…と。
ところがジーター選手、なにを思ったのか第1打席は絶妙なバントヒットで奇襲をかけた。全速力で1塁に走り込んだ。セーフ! あと2本、になった。観客の大拍手がヤンキースタジアムに鳴り響く。
3打席目はセンターオーバーの2塁打。そして、7回裏4打席目にライト前ヒット!2721本、達成だ。現代っ子ジーター選手が「神の部屋」の扉を開けた瞬間だった。記録達成したジーター選手に観客は惜しみない大拍手を送り、歓喜の歌声はなんと2分間も鳴り止まなかった…。
a0094890_17462191.jpg

だが試合は、
0-2
負けていた。この試合に「神・ルー ゲーリッグ選手」が手助けしたのか。8回裏、A・ロッド選手がヒット、続く松井選手が強烈な打球をライト線ぎりぎりに飛ばす。勝負には絶対的強さを発揮する松井選手のこのヒットが、敗色濃厚な試合の流れを一変した。勝敗を分けた打撃だったといえる。
松井選手には代走が送られる。へアストンJrが塁上に。無死1,3塁の好機を創り出したのである。
続くスイッシャー選手の内野ゴロがエラーになって、A・ロッド選手生還。これで、1-2。
代打のポサーダ選手が劇的な逆転3ランをライトスタンド上段へ!
a0094890_17465121.jpg

4-2。
これで、レイズ戦は4連勝。ヤンキースは今季91勝目をあげ、東部地区優勝マジックは14になった。
もはや東部地区での優勝は時間が決めてくれる…。「10月決戦」進出はもう決定した。

1チームで選手生活を全うする。このこと自体が現代ベースボールでは難しい。「10月決戦」に向けてトレードが許される現代の大リーグ。個人的な希望や環境からチームの移籍をしていく選手たち。そんな時代の中で、現代っ子ジーター選手がヤンキースというこの上ないビッグチームで15年間プレーし続けている。
この先、ヤンキースの選手が誰ひとり歩いたことのない道を、ジーター選手自身が創っていく。

ヤンキースにまたひとつ、新しい伝説が生まれた日である…。

人気blogランキングへ!
クリック よろしく
(写真素材はMLBサイトより)

…NY152…
by mlb5533 | 2009-09-11 16:08 | 第七章