選択

あの瞬間はまさしく、歴史的な社会事件と言えるだろ…。
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松井秀喜選手が今季米国大リーグワールドシリーズ第6戦で6打点を記録して、大活躍。MVP(最優秀選手)に選ばれたことだ。歴史的な社会事件としての扱いは日本国内だけではなかった。米国内のメディアも松井選手の活躍に拍手を送っていた。
ヤンキース・松井選手の活躍はご本人が感じておられる以上にボクたちベースボールファンの心を掴んで離さない。2,3、4打席と松井選手が打席向かうたびにボクたちの「夢」は益々膨らんで、その「夢」に応えてくれたかのように、ホームラン、単打、2塁打を連発。そのたびに得点に絡むタイムリーヒット。
ゴジラのバットが火を噴いた。

NYY 7-3 PHI

NYYの7得点のうち、6得点は松井選手のバットによるもの。第6戦でヤンキースは昨年ワールドシリーズ制覇のフィリーズの連覇を阻止して、9年ぶりの「栄光」を呼び戻した。

ヤンキースタジアムに戻ってきての第6戦。
マルチネス投手から松井選手の打ち込んだホームラン、センター前ヒットの記憶は消え去ることはないだろう。心あたたまる、上質のヒューマンドラマの舞台を見せてもらったような、そんな感激がボクの心に染み渡っていく。とくにMVPトロフィーを高々と頭上に挙げて観客に感謝を伝えた松井選手のあの笑顔には、ボクだけではあるまい、日本全国の人々の心と、地元ニューヨーク市民たちの心までもあたたかなものにしてくれたに違いない。9年間、この日を待つづけたのはヤンキースの各選手たちばかりでない。ベースボールファンたち、そのなかでもニューヨークで生活している人々には特別な日になったことだろう。

自分の記録よりも、チームの勝利を最優先する松井選手の野球観は太平洋を超えた米国でも最高峰のチーム・ヤンキースファンたちにも受け入れられた。そのことにも、ボクは感動がとまらないのである。
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さて、「最良の日」から数日が経った。
松井選手は心境をこうコメントしている。
「ヤンキースに対する気持ちは変わりません。確かに今年はやり遂げたけど、この球団にとっては世界一だけが唯一の目標なわけです。今は最高の瞬間だけど、時間がたつにつれて“来年もここにくるためにどうするか”を考え始める。そういう球団です。ボクが来年、そこにいるかは分かりませんけど…」
と、来季の去就については白紙状態であるという。
ニューヨークに思い出を残しているボクにしてみれば、身近なNYYと再契約して欲しい。
しかし、
「ヤンキースは素晴らしい球団だし、同僚もファンも好き。そのヤンキースに必要とされるのは幸せなことかもしれない。でも、自分が残りたいと言っても、球団に契約しないといわれたら終わりなわけですから…。あくまで今のボクは受け身なわけです。球団から何かアクションがあるまで、ボクからは何もない」
球団の意向と現場の各選手たち。このふたつの狭間に置かれているのが、ボクたちチームファンだ。
ボストンから移籍したデーモン選手は早々と来季は契約しないことが告げられている。代理人はすでに他球団の情報を収集していると聞く。

ところで、日本人ファンの共通した野球観は、「生涯一チーム」を「善」とする意識が高いのではなかろうか。それは、長嶋選手と王選手の時代に確立したものではなく、「就職先」を転々と変えないことを社会道徳のようにしてきた日本社会の国民性ではないだろうか…。経営者と雇用者との関係は、「家族」であり「一家」「藩」的な社会思想が土台にあった。それが高度成長経済の推進力ともなっている。「一家制」で大成功した経済活動が日本経済の底辺に存在していた。そんな人生観の持ち主が野球を観戦した時代には、自分の贔屓チームを転々と変えなかった。「ニワカファン」は少なかったのである。
力尽きるまでひとつのチームで活躍した選手に万雷の拍手を送ったものである…。しかし、いまはそんな社会ではなくなった。自分を守るために就職先を変えることはむしろ、「善」にすらなっている。ひとつことを全うする姿を、「ダサイ」と言われる時代である。
高度成長経済が終焉を迎えた頃、プロ野球界にもFAが導入された。自分の好きなチームに、自分を高く評価してくれるチームに移籍できる。ひとつのチームに最後までいる必要はない。

FA。今となってはチームカラーを追い求めた旧来のファンにとって、やっかいであり複雑な気持ちにさせてしまう制度になったものである。一方では、考えてみれば松井選手はFAなくして太平洋を渡ることは出来なかったことも、また事実である。
そんな気持ちが自分で整理できないファンは、ボクのような恥をかくことになる。チームと個人の選手、それと球団経営。きちんと区別しておかなくてはならない。
シアトルにはイチロー選手以前から、「ジュニア」という超スーパースターがいる。「背番号24」である。
彼がレッズに移籍した時、シアトルファンのなかには本当に涙して彼との別れを惜しんだ。そして、数年後シアトルには「ジュニアをマリナーズに帰そう」という主旨のボランティア団体まで誕生している。今年ジュニアはシアトルに帰って来た。DH4番打者として。確実に「背番号24」は、シアトルマリナーズの永久欠番になる。
怪我さえなければ、現役最高の堂々たる本塁打王だろう。ジュニアはシアトルでは、キング、なのだ。
シアトルのようなチームとは色合いが違うのが、ヤンキースだ。なにがなんでも毎年ワールドシリーズの舞台にいなければならないチームなのだから。その経営方針は時としてファンの気持ちとは裏腹な決断をする。ティノもそうだったし…、いちいち選手の名前を書いていたら切りがない。そういうチームであることを忘れてはいけないのだ。

03年、松井秀喜選手はその球団の思惑に合致した選手だから入団したのである。本人も「ヤンキースで世界一になること」を目標に掲げていた。お互いに相思相愛だったから移籍できた。ようやくその目標が達成されたいま、松井選手はこう言う。
「自分にとって何がいいか、自分にとってどういうチームがいいのか。もう1回、気持ちを白紙に戻して考えた方がいいかな、と思っている」と。

ボクはそれでいいと思うようになれた。
大リーグを長期間にわたって観戦したいのなら日本の観戦の仕方とは違うぞ、という「但し書き」を忘れてはファンは痛い目を見る。

松井選手がどんな来季を迎えるのか、どんなチームにいるのか、どんな選択をしようともボクは松井選手を支持する。たとえ、それがヤンキースでなくても、である。そう思ってくると、むしろFAになったら当然長期戦になることだろうから、それもまたおもしろい、と思えてきた…。
そんな日のこと、松井選手が10年間所属していたチーム・巨人軍が日本シリーズで日本ハムを4勝2敗と下して、七年ぶりに日本一に輝いていた…。

これにて、
松井秀喜選手「夢」物語第七章
の結び原稿とさせていただきます。コメントをいただいた多く皆さま。太平洋を越えた外つ国からもコメントしていただいた皆さま。うれしかった、です。ときどき、コメントを読んで涙が滲んじゃった日もありましたし、激励をいただいたこともあります。
ありがとうございます…。

なお、性懲りもなく近々、松井秀喜選手の「夢」物語第八章
を、書き始めます。また、皆さまからのあたたかいコメントを期待しております。
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(写真はMLBサイトより)

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by mlb5533 | 2009-11-08 04:19 | 第七章