「センター前ヒット」

個人競技のスポーツ、たとえば華麗なフィギュアスケートや格闘スポーツにはボクは子供の頃からさほど関心がない。チームプレーで楽しめるスポーツに興味がわいてしまう。それはきっとボクが音楽と長いつきあいをしていることと関連しているのだろうと思う…。アンサンブルの感性を持った人たちで演奏しないと、美しいハーモニーは生まれてこない。長い間ボクは指揮者からそう言う指導を受けてきた。だから、どうしてもスポーツ観戦となるとチーム力が気になってしまうのです。

現代オペラを代表する二期会会員のなかにも、高校時代スポーツをしていた歌手は沢山います。友だちのメゾソプラノもかつてバスケットボールでインターハイに出場していました。大学進学では音楽の道を選びましたが、未だに「私はバスケットボールの感覚で歌ってるよ」っていいます。

音楽とスポーツって、一見両極端に見えるかも知れないけれど、ボクはすごく似ているって思っています…。ロメディー、リズム、そしてハーモニー。これってチームプレーを要求されるベースボールも同じことのように思える。

WBCで日本チーム「侍ジャパン」が優勝して、世界の頂点に立ちました。前回に次いでの連覇です。
わずか2ヵ月足らずで素晴らしいチームが出来上がったなあ、と感動しました。それは単に彼らはプロだから、という説明では満足できません。「ひとつになろう」というアンサンブル感覚の持ち主たちが集まったから、あんな短期間で「チーム」が創られのだろうと思います。野球選手とて、人によっては自我の強い人もいるのではないでしょうか。音楽界でも同じです。「まず、自分から」という考えが強い人は、個人的にどんなに力があってもチームから浮いた形になりがちです。

素晴らしいチーム力、これにボクは心の底から「侍ジャパン」のメンバーに拍手します。感動を与えてくれた彼ら29人の「目的で繋がった人たちの絆」…それがあるから「一体感」を感じさせてくれたのだろう、と。細かい連係プレーは練習の賜だったことでしょう。内川選手、岩村選手たちのプレーはきっとそんな練習から生まれた「チーム力」だったのでは、と思いました。

そして、「彼らのチーム」は約束通り、3月25日をもって解散です。みんなと分かち合った日々を胸にしまい込んで、お別れ、です。栄光を存分に浴びて、彼らはまた元のチームに帰っていきました。そして、4月からまた「シーズン開幕」です。お互いに自分のチームのために闘ういつもの日々が戻ってきました…。

ロスでの記者会見でおのおのの選手たちが口をそろえてこう言ってました。
「野球人生で、このうえない経験が出来ました」
と。なんとすてきな、また羨ましいことばでしょう。きっと「侍ジャパン」の選手たちは、このチームと過ごした日々を宝物のように大切にしていくことでしょう…。

「侍ジャパン」の勝ち方は誰が見ても驚異的投手力と、コツコツ打って、懸命に走って、三振せずに次の打者につないだ彼らの勝利への情熱にほかなりません。オレが決める、たたきのめす的パワーには到底不足していますが、日本式野球の「基本の技」を披露してくれました。

イチロー選手が10回表、2死2,3塁の場面でファールでさんざん粘ったあげく、打ったのは「センター前ヒット」です。このヒットで内川選手と岩村選手が生還。5-3と勝ち越しです。なぜ韓国チームが敬遠策をしなかったのかはボクにはわかりませんが…。

「センター前ヒット!」
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これが素晴らしい、劇的ってボクは思いました。ここまで来るとボクはかなり上質の演劇舞台を見たような感覚になりました。ホームランが欲しかった人もいたかも知れません。しかし、「野球の神様」という演出家はイチロー選手に「そのとき」の打者に指名して、イチロー選手になにを打たせるか、まるで前もって台本が出来ていたかのようです。イチロー選手らしいなあと思った人の方が多かったのでは…。ボクは野球の技術はよくわかっていませんが、打撃の基本と言われているそうですが、センター返しという打撃だそうです。素直にまっすぐ打つ。そうすることで、打球は当然「センター前ヒット」になります。まるで高校球児のようではありませんか。それがボクには熱かった…。

日本の「野球」を彼らは思う存分、アメリカの地で発揮しました。
ベースボールという球技を輸入した日本が、やがて100年の歳月を経て、「野球」という文化までに大きく育んだ。その姿を本場アメリカで見せ、その「野球文化」の「価値」を証明してくれたのが、彼ら「侍ジャパンチーム」だった、とボクは想いました…。小柄で俊足、広角打法で、盗塁は当然という典型的な「日本野球の選手」の代表が「イチロー選手」と言えるのではないでしょうか。日本で生まれ育った野球選手が、パワーが信条の「ベースボール」を席捲していく…。投手達は高校時代から鍛え上げた投法で球を低くコントロールし、コーナーに狙いを定める。制御から生まれる美しい白球の軌道。スピードよりも、制球重視投法の日本育ちの投手から、パワーヒッターのバットは空を切るばかり…。

あのジーター選手が、
「日本チームはずるい。みんな足が早いんだよ」と苦笑していましたし、カブスのテッド・リリー投手は、より謙虚に、「多くを学んだ。試合前に難しい守備練習に時間を割く。確かにパワーは足りないかもしれない。でもほとんど三振しない」。フィリーズのシェーン・ビクトリノ外野手は「堅実に、完ぺきにプレーする。それが勝てる理由だよ」。エンゼルスのスコット・シールズ投手は「ダルビッシュはすごいよ。チームに戻って、すぐに投手コーチに“チャンスがあるなら絶対にヤツを獲れ”って言ったんだ」とまるでスカウトだった、とサンスポの記事になっていました。
こんな記事もありましたから、記念と記録のために書き残しておきます。
サンスポサイトの記事からです。

米国メディアは電子版で日本野球を世界に“発信”した。敗退するまでは、多くが出場辞退や故障者続出でWBCそのものの意義を問う斜に構えたもの。しかし、決勝が終わると風向きが変わった。

スポーツ専門局ESPNは「日本と韓国は本物の大試合(クラシック)を繰り広げた」と、球場全体が勝利への願望に満ちていたと報じた。ボストン・ヘラルド紙は「WBCは米国優越神話に穴をあけた」とグローバル化を強調。専門誌スポーツ・イラストレーテッドはこう結論づけた。

「いくら米国が独りよがりを言っても素晴らしい決勝が“われわれのゲーム”でなかったのは事実だ。本塁打に代表される米国野球の要素がなくても、日本はスリリングな野球をショーケースに並べた。日本の本塁打はたった4本だが、それでも素晴らしい野球をして王者になったのだ」
もはや、お世辞ではない。「ベースボール」の母国が、日本の「野球」を認めたのである。

と。決勝は大会史上最多の5万4846人を集めました。WBCは、まだまだアメリカでは「市民権」を得てはいませんがこれだけの観衆が集まったことは事実です。

これはボクの予感ですが、今年は日本の野球にしても、各国のベースボール熱は例年以上に高まっていくだろう、と。
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これはボク個人の「夢」ですが、ヤンキースでひとり、コツコツと練習している選手がいます。この選手が今年10月に「劇的なプレー」をするはずです。この時期、日本のメディアから一切そっぽを向かれていたかのような扱いを受けている選手がいます。3年間、野球人生で最も大切な年月を体調不安から思い切りプレーできなかった日本を代表するスラッガー。一昨年、昨年と膝を故障してメスを入れた選手。WBCで大活躍した岩隈投手は2年間、どん底を体験してメスをいれてまで頑張ったと聞きました。その結果が、昨年21勝をあげて、復活。投手部門の各賞を総ナメにしました。

そう、松井秀喜選手のことです。ボクは信じています。今年、松井秀喜選手が大活躍をする、と。この選手ほど日本式野球をする選手はいません。自分の役割を心得て努力している選手に、「野球の神様」が放っておくはずがありません…。

さあ、もう間もなく「開幕」です。
野球狂を自称するみなさん、いよいよボクたちの季節が来ますよ!

ボクは松井秀喜選手の「夢」に託して、声援を続けていきます。
「さあ 行こう マツイ!」

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by mlb5533 | 2009-03-26 14:30 | 第七章